月明りと害虫の行動


 満月の夜は昆虫、特に鱗翅目昆虫の活動が低下するのではないかという俗説がある。これは害虫の発生予察のために設置されている誘殺灯に捕らえられる虫の数が満月前後には低下するという長年の経験則によるものである。ところが最近ゴルフの練習場などで用いられる高輝度の照明装置においては、満月前後の昆虫の増減というような現象はあまり見られないともいわれている。昆虫と月明りの関係についてはその他に、
  1) 月光が薄明と同様に休眠打破の日長効果を得られるか?
  2) 月光が昆虫の交尾行動の阻害要因となるか、
  3) 月の満ち欠けが昆虫の生理作用に関与するか?
などの点について関心が持たれる。ここでは害虫の発生消長調査法として重要な役割を与えられている誘殺灯と月明りの関係を解明するために月光照度を測定した悠長な研究を紹介しよう。

月光照度の測定: 月光照度は満月が天預にある場合にも0.1Lux という弱い光であり、わが国のように湿度の高い国ではさらに低いと想像されたので、太陽電池を基にして最高0.1Lux を測定できるものを試作した。照度計の受感部は太陽電池を日射計用の透明カプセルで覆い、機械部と共に温度の急変を防ぐために、地下2mの空気タンクから常に恒温の空気を送り込むようにした。太陽電池に発生した電流は増幅して記録計に記録した(第1図)。2年間にわたる測定の結果、判明したことは次のとおりである。
 1)外国のデーターでは最も明るい場合には0.1Lux とされているが、金谷では0.08Luxが最高であった(1月の満月が天頂に存在する場合)。
 2)0.1Luxという明るさは日没後80分に観測される場合が多かった。
 3)新月の日で星がはっきり見える場合は0.0009Luxとされているが、このような明るさは自作の月光照度計の限界を下まわっていた。
 4)夏と冬によって地下2mの温度も変わるので記録計のベースラインは変化した。
 5)夜の光としては雷鳴(稲光り)があるが、月光照度計にはよく記録され、最も明るい場合には 0.1Lux、通常は0.8Lux程度で、満月の場合とほぼ同じであった。2年間程度の記録では満月の時に蛾の発生ピークが合致するような例が少ないので充分な検討はできなかった。しかしながら傾向としてはコカクモンハマキ、チャハマキでは満月が近くなると誘殺数が低下する場合が多く、満月をすぎると急速に誘殺数が増加する場合がみられた(第2図)。
この現象は外国の例(Bowden1978)にもみられるが、その理由として、これらの蛾の活動時間が主として19時〜24時にあり、満月を過ぎた場合には月の光の影響がでる時間が、この活動時間帯を過ざるために、実質的には影響がないためであろうと思われる。 蛾類のさらに詳細な月光に対する反応については観察を続けて結論を出さねばならないが、ニカメイチュウについての室内試験では1.31×10-2〜9.20×10-2Luxの範囲に最適な光反応がみられるという報告があり、月光はこの値に近い所から月光が昆虫の行動に影響を与え得る可能性が考えられる。